こんな話が21世紀になってからネットで広まった様です。
2001年12月23日のグリーンランド。吹雪の夜、チューリー(Thule)アメリカ空軍基地に接近していた「キングバード50」(King Bird 50)を名乗る所属不明機が消息を絶つ。捜索したら、燃料切れで氷河に胴体着陸したB-50D爆撃機を発見。乗員は全員亡くなっていたが、飛行記録によると、ニュージャージーを出発したのは1948年12月22日だった。つまり、これも飛行機がタイムスリップしたという話ですね。
発端は恐らくこのオカルトサイト。著者はJames L. Choron氏との事です。2002年12月に掲載された様ですが、あちこちに妙な誤字が見られる事から、書籍を元にして入力した文章だと思われます。
The Strange Case Of King Bird Fifty
http://www.rense.com/general32/gly.htm
全く同じ話が別のオカルトサイトにも掲載されています。こっちの方が誤字が少ないですね。WinterSteel Publicationsという出版社が2001年12月に公開した文章だそうですが、実態は不明です。
THE UFO CASEBOOK Assorted Documents, King Bird 50
http://www.ufocasebook.com/kingbird50.html
長い文ですので、要所のみ拾って見て行きましょう。
2001年12月23日の夜、チューリーの気温は摂氏マイナス52度で、時速20マイルの吹雪と時速35マイルの突風が吹いていた。実際の記録だと、その日は割と穏やかだった様ですが。
http://en.tutiempo.net/climate/12-2001/ws-42020.html
https://www.wunderground.com/history/wmo/04202/2001/12/23/DailyHistory.html?req_city=&req_state=&req_statename=&reqdb.zip=&reqdb.magic=&reqdb.wmo=
大西洋上の「キングバード50」が基地から100海里に接近し、通信を開始。南側から来たという事でしょうか。
最後のメッセージは01:07(GMT)に滑走路の10海里先から。具体的な時刻が書かれているのはこの部分だけ。グリニッジ標準時なら、現地時間はマイナス4時間か5時間でしょうか。
レーダーから機影が消え、通信も途絶えた。おやおや、大変です。
滑走路の延長線上12海里先の氷河に胴体着陸。滑走路端から14海里先ですと氷河があるのですが、12海里先は山です。
https://www.google.com/maps/place/76%C2%B033'10.2%22N+67%C2%B048'08.0%22W/@76.5522852,-68.01673,12482m/data=!3m1!1e3!4m5!3m4!1s0x0:0x0!8m2!3d76.552826!4d-67.80223
乗員は全員死亡。お気の毒です・・・。
飛行機は燃料が切れているが、大きな損傷は無い。まさか燃料切れで不時着?そんな大事なことを知らせてこなかったんですか?
飛行記録には、機内に留まって救助を待つ旨記載されていた。記録しているという事は、不時着時にはまだ生存していた筈ですよね。
ニュージャージーを1948年12月22日に出発し、向かい風により到着予定時刻から2時間遅れていた。30時間飛行できる機体が10時間で到着する場所に2時間遅れて燃料切れ?燃料半分以下で極地に向かった?
1948年は暖冬だったので、乗員は寒冷地用の装備を用意していなかった。そんなアホがいてたまるか。
乗員は不時着後数時間は生存していた様だが、衝撃と低体温症で亡くなっていた。機体に損傷は無かったというのに、何の衝撃を受けたのでしょうか。
死亡推定時刻は発見の10時間前、最後の通信があった時刻だった。さっき数時間生存していたって言わなかった?
機体番号は1948年に行方不明になったB-50Dと同一だった。B-50Dの初飛行は1949年5月となっているのですが・・・。
http://www.globalsecurity.org/wmd/systems/b-50d.htm
B-50はB-29のエンジンをターボプロップにした発展型。いや、レシプロなんですが・・・ 。
この時代の飛行機には与圧キャビンが無く、乗員は酸素マスクと重い服と暖房で凌いでいた。B-29の頃から与圧されてますって。
この機体はチューリーの格納庫に移送された。道もない雪の中をどうやって運んだのでしょう。
プロペラが少し曲がっただけで機体に問題は無く、3日以内に飛行可能と見積もられた。40tの機体が胴体着陸して問題無し?飛行可能なプロペラだって3日でどこから調達するんですか?
噂によると、B-50の整備士と操縦士を探しているという。なんでまたそこまでして事故機を飛ばそうとするんでしょうか。
乗員の遺体は、過去の事故現場から発見されたとして数日後に公式発表される予定。結局中止になっちゃったんですかねえ・・・。
「フィラデルフィア・エクスペリメント」や「バミューダ・トライアングル」の様な超常現象が起きたのだろうか。
そこはむしろ、古い旅客機が空港に着陸したら全員白骨化していたというタブロイド紙の捏造記事「サンチアゴ航空513便事件」でしょう。
ちなみにTHE UFO CASEBOOKの方には、不時着しているキングバードらしき機体を空から写している写真が載っているのですが、何故か機体の周囲に全く雪がありません。![]() |
http://www.ufocasebook.com/kingbirdrescue.jpg |
上の写真の機体の正体は、まず間違いなくこちら、「B-29キーバード」です。
![]() |
http://www.b29keebird.net/images/KeeBirdInLakeBig.jpg |
B-29キーバードキーバードとキングバードの話を比べると、色々と被っている事に気付くと思います。B-29とB-50も非常に似た機体なのですが、面白い事にChoron氏は、B-29と同じレシプロ機であるB-50をターボプロップ機と勘違いしています。しっかり「Pratt & Whitney R-4360-35」と正しいエンジンの名前を記しておきながらそれをターボプロップだと思い込んでいる辺り、レシプロエンジンではまずい理由がありそうです。
1947年2月のグリーンランドで、「Kee Bird」と名付けられた米空軍のB-29爆撃機が嵐で進路を見失い、燃料が足りなくなって氷原に不時着した。乗組員は3日後に全員救助されている。この機体は現場に放置されていたが、94年に有志の手による再飛行計画が始まった。95年には復元を終え、いよいよチューリーに向けて飛行するという時に、不幸にも火災が発生して機体は全焼してしまった。
実は2001年の時点で米空軍はレシプロ機の運用をとっくに終えています。最早使う当てのないラジアルエンジンのメンテナンス設備が本国から離れた基地に整っているとは考え辛いですし、航空用ガソリンすらあるのかどうか分かりません。恐らくChoron氏もこの点に気付き、ターボプロップ機であればなんとかなるのではと考え、ターボプロップだと思い込んでいたB-50を登場させたのではないでしょうか。因みに米空軍のターボプロップ爆撃機は試作機のみで、実際に配備されたものは一機も無い様です。
・・・そんな具合で、いちいち突っ込むのも疲れる話なのですが、この話の日本語版を掲載しているサイトもありました。
No.123 53年後の世界に飛行して来た爆撃機(Sun 06 Nov 2011 02:35:58 PM JST)
http://ww5.tiki.ne.jp/~qyoshida/kaiki2/123bakugekiki.htm
Choron氏の話では最初の時刻が23日夜だったのが、こちらでは23日0時過ぎと、前の日の夜に変更されています。GMTと現地時間を混同しているのでしょうか。そこから暫くはChoron氏とほぼ同じ話が明らかにおかしい部分を省略しながら続きますが、途中から名前の付いた捜索隊員が登場したりとアレンジが始まり、挙句キングバード50は何故か無関係なバミューダ海域で消息を絶っていた事にされています。そして機体は点検を受けて三日後にアメリカに送り返されたのだそうです。分解ではなくて点検という事は、やっぱり飛んで行ったという事なのでしょうね・・・。
日本語のサイトをもう一つ。
【超常現象】 過去からやって来た爆撃機キングバード50の謎 〈248JKI34〉 | Kijidasu!
http://kijidasu.com?p=2531
こちらも何故か23日0時になっています。そこからはあまりアレンジを加えられていない様ですが、三日後に送られたのは飛行機ではなく、乗組員の遺体となっています。皆さん、「三日後」にこだわりますね。
キングバード50とされる画像も載っているのですが・・・
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http://kijidasu.com/wp-content/uploads/2014/03/23caa045bce9e8406584e4c293b01d02.jpg |
あ、キーバードだ。
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http://www.b29keebird.net/images/KeeBirdInLakeBig.jpg |